読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Bad Summer Day Blues

「感情を高ぶらせてペン先から煙を出すためにはそれなりの覚悟ってヤツが必要だ」

そして私はそよ風になった

 おばんです。今日は過去の話を一つ。

 2014年冬にリリースしたEP『An Invisible Storyteller』の裏表紙に記載されているこの言葉。最初は乗せる予定は無かったのですが、デザインを手がけてくれた小泉くんの粋なはからいによりこの一文を皆様にお届けすることが出来ました。実物が手元にある人は是非見てみて下さい。

 この一節は、円城塔の処女作『Self-Reference ENGINE』に収録されている断章の「Event」からの引用で、計算処理速度を高めるために、ついに演算を自然現象として処理することを達成した知性体による台詞です。思弁的な一節かと思いきやストーリー上においては全くの事実ということで、こういう法螺話感が円城塔の真骨頂といえるべきところなのですが、そのめちゃくちゃな感じが一周回って感動を引き起こしているような気がしてなりません。その後も彼のいろいろな作品を読みましたが、やはり記憶に残っているのはこの一作です。ストーリーはほとんど覚えていませんが。

 この曲「An Invisible Storyteller」自体は、ある出演イベントの当日朝に勢いで完成させただけの楽曲なのですが、どうしてこのタイトルにしたのかは全く覚えていません(最初のデモバージョンのファイル名を見たら「gazingyrhrt_demo1.wav」でした。これはこれで恥ずかしい…)。その当時は、色々な事情で気が動転していたんじゃないかと推測できます。その後、サウンドクラウドにこの楽曲のデモ版を公開する時に、ふと思いつき、楽曲の説明文に引用した言葉が「そして私はそよ風になった」でした。そして、細かいところを調整したバージョンをEPに収録し、それからのライブ出演時には、個人的に勝手な定番曲として、ほぼ毎回この曲を流しました。いつしか、この曲に引っ張られる形で、色々なことを決め、自らの人格を、サイコロを振るように決めていきました。

 全ての行為がある元の行為に引っ張られて、未来の新たな分岐点を作っていくのだなというのを、この曲に纏わる色々な話を思い出す度に感じます。この曲に関しては、ライブでも、想起される感情は様々なようで、誰かの感情を引き起こすために自分の音楽が必要とされているという状況は、なんとも有り難かったです。

 この頃の制作における一貫のテーマは、「自分の価値と他人の価値のズレを如何に認識、肯定するか」みたいなところに尽きていたと今になって思います。『Everything Happens To You』では、すべての振りかかる出来事は、主体自身が無意識に取捨選択した出来事である、ということについて自分なりに考え、解釈を重ね、作品にしたためました。『An Invisible Storyteller』で表現したのは、価値の違いや出来事の違いなど、相違により発生する矛盾を含める全てを内包的に見つめ、認識する存在そのものです。その解釈のヒントを「そして私はそよ風になった」という一節から、貰ったような気がします。

 このEPを出した時は、次はどういう動きをしようかということで頭がいっぱいでした。しかし、そのうちに自分の中で色々なものが回らなくなり、また、自分の力と覚悟が不足していると実感する決定的な出来事も多数起こり、今はこういう形で、どうでもよい思い出話を書き連ねるまでに堕しています。

 もうひとつ、製作予定だった作品集『echoes』もまた、『Self-Reference ENGINE』の一節、「echo」に感化され制作を決めたテーマでした。自らの力不足と、色々な可能性の確認のために、これも完成は随分と先になるかもしれないなぁと思っています。気負って手に負えない物を作ろうとするとその後は決まって健康を損なうということがわかってきたので、ぼちぼちそこそこでやれるようなペースを考えている最中です。

 ものを作るのを諦めようとした時に、何らかの形で自分の中の何かをアウトプットしないと気が済まないみたいな感情に漸く気付くみたいなのが面白くて、何事も、経験したり、失ったりしないとその価値に気づかないものだな、と強く思う今日此の頃です。

 重苦しい作品ばかりですが、今後とも引き続き愛すなり貶すなりしていただければ幸いで御座います。