Bad Summer Day Blues

「感情を高ぶらせてペン先から煙を出すためにはそれなりの覚悟ってヤツが必要だ」

2016年良かった国内の音楽5選

和田です。

前回の本に引き続き、今度は国内アーティストによる今年良かった音楽を厳選して紹介します。

前回エントリは以下

 

mwxn92.hatenablog.jp

 

はじめに

  • 今年良かった国内アーティストの音楽を幾つか紹介します
  • 全部今年リリースです(去年以前初出のものもありますが、今年リリースされた基準で選んでいます)
  • 後から書き足す可能性があります
  • 海外編は余裕があれば年内に書きます

2016年良かった国内の音楽5選

ASA-CHANG&巡礼 "まほう"


押見修造 × ASA-CHANG&巡礼 - 魔法 @ アウフヘーベン!vol.3

 3月リリース『まほう』に収録。今年はこの音楽に突き動かされ続けた1年間だったんじゃないかと個人的に思う。

 押見修造の漫画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』をベースに敷いた楽曲で、発音のタイミングや円滑さを自身でコントロール出来ない吃音障害を模したボイスサンプルが、徐々にグルーヴとメロディを獲得し、昇華されていく。仮歌がそのまま採用されたという生々しい歌声も、肉体的なボイスカットアップと美しいアンサンブルに包まれながらその世界観を創り上げていく。

 この楽曲だけではなく、このアルバム全体がとても暖かな空気に包まれていて、弱者に対する優しさや、隙間に落とされた微細な感覚をすくい上げるまなざしが所々に覗える。単なる音楽的に優れた作品である以上に、アート文脈的というか、セラピー的な感覚を持った作品だと感じた。こういった眼差しを持ちながら音楽を続けていきたいと思う。

Moe and ghosts × 空間現代 "新々世紀レディ"

  4月リリース『RAP PHENOMENON』収録。

 今年聞いたあらゆる音楽の中で最もグルーヴに溢れていて、それでいて突拍子もなく無軌道。ズレと隙間に対して真摯に向き合う空間現代による非存在するグルーヴに溢れるアンサンブルの上に重なるのは、ペダンティックで迂遠、日本のサブカルチャーの幽霊像を乱射するMoeのラップ(ポエトリー・リーディング?)。「反グルーヴ故にグルーヴ的」と「ペダンティック故にソウルフル」の2つの虚数が合わさって(2つのアーティストを繋いでいるのは乗算記号だ)出来上がるのは、途方もない実数の情報量にひたすら踊らされ続けるだけの音楽体験。ちょっと自分でも興奮して何言ってるか分からなくなってきた…。

 このアルバム全体が基本的にどっちのアーティストも容赦せずにサウンドを構築しにかかっているので、いわゆる引き算の美学とかわかりやすさ、みたいなところとは結果的に対極にいるのだが、実際はこういういわゆる「フィメールラッパー」的実像から遠くはなれているような音楽についてちゃんと真面目に語ってしまってもいいんじゃないかとも思っている。もしくはサブカルチャーの乱反射に太刀打ちできずに何も表現出来ないまますごすごと立ち去ってしまうかのどちらかだ。

 サウンド的には上に挙げた「新々世紀レディ」が一番取っ掛かりやすいと感じるが、このアルバムの中で唐突な存在感を顕している、山内マリコ著作『ここは退屈迎えに来て』の一節を引用した「可笑しい」も無視できない楽曲だと感じる。「可笑しい」では、『ここは退屈迎えに来て』の東京に対するコンプレックス、地方の空虚さについてのイメージを引用し、空間現代の決してグルーヴ的に展開することのない演奏と相まって、空虚で所在のない音楽体験を発生させている。しかし、実はこのアルバム全体を包み込むペダンティックサブカルチャー的感覚そのものが、そういったいわゆる都会的な存在に対するコンプレックスの「虚像」によって発生したものであり、それ故この引用は、『RAP PHENOMENON』の世界観の確立と、このアルバムに関わるアーティスト自身の感覚に対する自己言及という二重の意味を持っている。

 上の関係が直接あるかは分からないが、東京発のバンドである空間現代も、今年の後半には京都に活動の新天地を求め、そこにライブスタジオ「外」を設立している。そういったことも含めて、今年は場所性や空間性というものについても考えさせられる1年だった。

Seiho "The Vase"


Seiho - The Vase

 5月リリース『Collapse』収録。この作品に関してはUNCANNYにてレビューを寄稿しております。

uncannyzine.com

元々Beats的なサウンド感覚に接近し、数々の特徴的なクラブ・ミュージックを作り上げてきたのみではなく、独特のライブ・パフォーマンスや哲学によって国内外を見ても類のない特異なアーティスト像を築き上げているSeihoの新作は、まさにその「クラブ・ミュージック」の解体そのものの行程だった。というより、その体験は僕たちが「クラブ・ミュージック」として信用していた実態のない文脈や思想、共同体的意識の崩壊に近い。

 

 『Collapse』がリリースされてから、明らかに身の回りのアーティストの目つきが変わった。時流を読む、ということに対して諦観を示していたような人たちの目の色すら変えさせるような、圧倒的なパワーがあった。多くのアーティストが、「音楽をする」という原点そのものに立ち返り、答えを導き出さざるを得なくなった現状は、この『Collapse』の登場が一端を担っているかもしれない。逆に言えば、これから音楽に向き合うということは、あらゆるマーケティング的感覚と自己の音楽的感覚を別離させ(若しくは前者を「アウトソージング」し)、SoundCloudの外側、大気圏への冒険を余儀なくされる、ということである。

 これから何かが起こる、そんな兆候を示してくれたアルバムが『Collapse』だった。

辻林美穂 "あぶく"


辻林美穂 - あぶく

 4月リリース『Clarté』収録。

 凄く優しい曲調なのに複雑にたゆたい、時に解決するメロディ、そしてどこかくすんだ暗さを持つ歌詞が組み合わさって、アウトプットがこんなにポップなのズルくないですか…。「水面に浮かぶ泡 指で潰す」の部分でいつも気持ちがメチャクチャになります。

 この曲を聴いていると、当たり前に眼前にある風景の中にもどこか息苦しさとか切なさというのは眠っているんだよな、ということに気付かされてしまう。そしてまた、どんな悲しい風景の中にも美しさが眠っているということにも。その度に目の前の新しい何かを見つけてしまうほどの破壊力を持っているのに、構造の完璧さ故にさらっと聞けてしまう…。(ポップさを語るのはどうも苦手で、陳腐になってしまう)

 多くを語らないMVもとても良いです。

Yoshino Yoshikawa "PRNG (Hercelot Remix)"

 

Yoshino Yoshikawa - PRNG (Hercelot remix)

 10月リリース『Event Horizon』収録。

 永遠の目標で、大好きな先輩で、同時にライバルでありたいなと思ってる存在なので本当にHercelot氏の楽曲は全部好きなんですけど、今回のこのリミックスは一番やられてしまった。

 最小のダイナミクスを扱うのがとても上手くて、完璧なタイミングで乗るノイズやグリッチ、考え抜かれたサウンドの抜けの良さには何度聴いても惚れ惚れしてしまう。そして今年聴いた国内の楽曲の中では一番良いスネアが鳴っているんじゃないかと思っている。

 そして勿論『Event Horizon』そのものも非常に優れたアルバムで本当に必聴です。どういう文脈、理論、グルーヴを通過することで音楽はポップ足り得るか、ポップさのアップグレードは可能なのか、ということについて考え抜かれた2016年重要作といって過言ではないかと。

まとめ

  • 今年は臨界点を迎えた後の世界というか、あらゆる個性のものが多く出たような気がするし、そういうものを聴いていた
  • 「海外編」が書ければそっちに書くけど、結局メロディーが重要という気持ちも芽生える
  • 来年ももっと個性の向こう側に突っ切ったような音楽が聴きたい、生み出したい

ありがとうございました。