Bad Summer Day Blues

「感情を高ぶらせてペン先から煙を出すためにはそれなりの覚悟ってヤツが必要だ」

西東京のにおい

 京王線めじろ台駅を一歩降りると、張り詰めた静寂の空気が一気に流れ込んで、鼻腔を通じて身体中が冷やされた。家路を急ぐたくさんの人々がエスカレーターに列をなす間に、身体は寒さにも慣れ、馴染みのないベッドタウンの空気を新鮮な気持ちで味わえるようになっていた。

 ラーメン二郎、あとはだだっ広い道路と居住空間しか目立たないこの町が僕は好きだ。それは、僕が生まれ育った東京の西部、都会のベッドタウンに対するシンパシーが要因としてあるのも間違いないのだが、なにより、その地域周辺が抱える空白感が好きなのである。計算立てて縦横無尽に組み立てられた都会のパズルと比べて、ベッドタウンのどうどうとした空間造形たるや。隙間を見つけては埋めたがる気持ちが抑えられない結果ぶくぶくと巨きくなった自分の身体を恥じた。

 汁なしラーメンを食べきって帰路につく。高尾駅で中央線に乗り換える時、またあの匂いがした。真空状態で冷やされた、静寂のにおい。都会のせせこましくも無限に展開していきそうなあの空気と、しんしんと積もる静寂の空気の中を行き来する間を、季節がただ黙って行進を続けている。僕の意識は、この実時間よりもさらにゆっくりと、東京の隙間を今も歩いている。